「魚の熟成」というと、初心者には難しい印象を受けるかもしれません。実際、プロの現場で行われる熟成は温度や衛生管理、設備などにコストをかけて管理されています。数日から数週間に渡る熟成は、徹底的な管理体制でなければ困難ですし食中毒などのリスクが高まりますから、本格的な熟成は残念ながらご家庭での実現は難しいでしょう。
しかし、3日程度の短期熟成でも魚の身は劇的においしくなります。
そこで、今回は料理初心者も挑戦しやすい、3日間の簡易的な熟成をテーマに「家庭で簡単にできる熟成方法」をご紹介します。
魚を熟成させるメリット
なぜ魚を熟成させるか。その答えは「おいしくなるから」に尽きます。
釣りたてしめたての魚にも魅力はあります。プリッとした食感、フレッシュな瑞々しさ。新鮮な魚にはそれだけで心を満たす不思議な魅力があるものです。しかし刺身にするとどうにも味気なかったり、魚の種類によっては食感が強すぎて噛みにくかったりすることも。
一方、熟成魚はうま味成分が増大しているため、味が劇的に変わります。単純に「おいしくなる」のです。食感も変化し噛みやすくなり、ねっとりとした感触もおいしさに寄与します。
新鮮な魚、熟成魚、どちらにも魅力はありますが、刺身のおいしさを存分に味わうには熟成魚がおすすめ。塩焼きなどには新鮮な魚がおすすめです。
「熟成」と「寝かせる」の違い
よく「魚を寝かせる」という言い方を耳にします。魚だけでなく発酵食品や小麦粉を使った料理、酒やワイン、肉などでも同じような言い回しをすることがありますよね。
「熟成」と「寝かせる」は、厳密にいうと別物です。冒頭にお話ししたように、温度や衛生状態などを徹底的に管理して行われるのが熟成、本記事で紹介する簡易的な熟成は寝かせ──ということになります。
それぞれの違いは、前者は「熟成を目的とした徹底的な管理」、後者は「魚の保存性を高めるための技術(その延長上に「熟成」という偶発的な産物がある)」といったニュアンス。少しややこしいですが、あまり難しく考える必要はありません。どちらにしても重要なのは「衛生管理」です。
初心者でも家庭で簡単にできる魚の熟成方法
それではいよいよ魚の熟成を実践しましょう。
今回の簡易熟成の仕込み自体はとても簡単です。まずは魚の内臓を除去して水気を拭き取り、腹にペーパーをつめて半真空状態にしてから冷蔵庫で保存。毎日ペーパーを交換──といった流れで行います。作業自体難しいことはまったくありませんし特別な道具なども必要ないので、魚をさばいたことのない方でも簡単に実践できます。
ただし、魚は新鮮なものを使ってください。鮮度を失った魚は細菌が繁殖しやすいためです。サバやサンマなど赤身の魚の場合、ヒスタミンという有害物質による中毒も気をつけなければなりません。とにかく新鮮な魚を使うこと。
今回はソイを使いますが、どの魚でも基本的に熟成方法は同じです。
家庭でも簡単にできる魚の熟成方法手順1.「内臓を処理する」
まずは魚のエラと内臓、血合いを取り除きます。
エラと内臓、血合いは、魚の身の中でもっとも細菌が繁殖しやすい部位です。熟成は細菌との戦いですので、細菌が好む環境条件をできるだけ取り除き、魚を衛生的な状態に導きます。
この段階でうろこを取り除く必要はありませんが、体表面のぬめりなどは洗っておいてください。魚をていねいに扱うことを忘れてはいけません。乱雑に扱って身がダメージをうけると、そこからどんどん身が傷みやすくなります。
家庭できる魚の熟成方法手順2.「ペーパーを詰める」
内蔵を除去したら、体の表面と腹の内側の水気をしっかりと拭き取ります。魚の体液を含む水分全般もやはり細菌の繁殖を促しますので、ていねいに拭き取りましょう。その後、キッチンペーパーなどを腹からエラの内側までみっちり詰めます。
家庭できる魚の熟成方法手順3.「半真空状態にする」
魚を新聞紙やグリーンパーチ(魚屋さんが使う緑色の紙)などで包み、魚体がすっぽり入る大きさのポリ袋に入れます。ポリ袋から空気を抜いて半真空状態にしますが、ここで便利なのがラップの芯などパイプ状のもの。パイプを使ってポリ袋の中から空気を吸い出ししっかり結べば、簡単に半真空状態のできあがりです。
熟成魚の仕込みはこれで完了。あとは冷蔵庫で寝かせるだけです。腹に詰めたペーパーを毎日交換し、3日たったら食べごろ。熟成魚のおすすめの食べ方はやはり刺身です。
刺身として食べる際は、うろこをとって骨を取り除き、皮を引いてから身を切りつけていきます。1~2日の熟成でもそれぞれ食味が異なりますので、熟成魚だから味わえるいろいろな食感をお試しください。
魚の熟成を家庭で行うときの便利道具
この通り熟成のための処理はとても簡単ですから、特別な道具は何も必要ありません。ペティナイフだけで済ませることもできます。
とはいえ料理初心者の方でも、これから魚を扱う機会が増えそうなら、やはり出刃包丁があった方がいいでしょう。魚の処理に特化した出刃包丁が一つあれば、魚をおろす際などの作業効率が各段に上がるだけでなく、ケガの防止など安全にもつながります。
今回は魚の腹をほんの少し裂いたり、エラを外したりする程度にしか使いませんが、この後の魚を三枚におろしたり骨を断ち切ったりする作業には出刃が最適。専用の包丁を使えば、仕上がりも美しくなります。
初心者でも家庭で仕込める熟成魚で広がる料理の楽しさ
初心者向けの家庭で仕込める簡易熟成とはいえ、魚を寝かせることで味が大きく変わり食事の楽しさが倍増します。魚の衛生状態をしっかり管理できるようになると、魚をさばいたり食べたりする楽しみだけでなく、釣ったり持ち帰ったりする楽しさも大きくなるでしょう。
「家に着くまでが遠足」ではありませんが、「魚をおいしくいただくまでが釣り」と考えれば、当記事で紹介した熟成方法を知っておいて損はないはず。
ただし、魚の熟成は常に細菌リスクと隣り合わせということをくれぐれも忘れないでください。一般家庭にある設備では、せいぜい3日程度の熟成が限界です。それ以上の熟成は腐敗や中毒のリスクが高まるのでご注意を。
熟成を安全に楽しみ、おいしく魚をいただきましょう。
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